今回は、サンフランシスコにあるAcademy of Art University(以下アカデミー)という大学に留学中で、キャラクターアニメーションを勉強されているasamiさんに、アカデミーのことやアニメーションの事を色々聞いてみようというコーナーです。
以前からツイッターでお互いの存在を把握していたものの、ツイッターでたまにいいね!をするという牽制球を投じるのみで、会話という名のキャッチボールをしたことはありませんでした。しかし、ついぞ直接お話しすることができたのです。
- ピクサークラスって何?!
- アカデミーとカルアーツの違いは?
- 社会人留学あるある
などなど話題は盛りだくさん。ぼくと同じで社会人経験があるasamiさんは、とっても引き出しが豊富で、非常に勉強になりました!ということで、これ勝手にシリーズ化。正座しながら執筆しているからきっと快諾してくれるはずである。
これを読めば美大留学やアニメーションに興味が湧く事間違いなし。それではいきましょう。教えてasamiさん!
asamiさんってどんな人?
髭猿:経歴を教えて下さい!
asami:中学生くらいのときからピクサー映画が大好きで漠然とピクサーに憧れていました。世界にはすごいチームがいるなあと。
でもアートは一握りの人の世界って感じがしてて。私はアートのバックグラウンドはなかったから、アートじゃなくてもピクサーに入る方法ないかなーとずっと思ってた。PRとか、ショップの店員とか(笑)。いずれにせよ英語は必ず必要だと分かっていたから、その時からちょこちょこ勉強してたよ。
ー高校卒業後は日本で大学に進学したんですか?
そう、ピクサーいいなあと思いつつも大学へ進学した。ちなみに学部はアートは全然関係ない(笑)。昔から国際協力にも興味があったから、大学2年生の時に約半年ボランティア留学をしてみたの。ピクサーはアーティストじゃない自分には現実的じゃないし、こっちを志そうと一度は決めた。
でもやっぱりやっぱり諦められなくて。ボランティア留学から帰国した後、とりあえずお金を貯めようと決めた。ピクサーを目指すなら海外の大学にいかないといけないだろうし、とりあえず大手企業に入社してお金を貯めようって。
ー大学卒業後はどれくらい働いたんですか?
最初は営業部でその後は事務。全部で4年半くらい働いたよ。それでも足りなくて夜間に夜行バスの誘導バイトもやったよ!(笑)
Academy of Art Universityに入学するまでの経緯
ーアカデミーを志望した理由は?
本当はカルアーツに行きたかったの。でもお金と留学期間の問題から(カルアーツは編入ができない)、アカデミーを候補にした。あと、その時は会社員をしながらデジタルハリウッド大学に通ってMayaを週1回学んでいたんだけど、その時のデジハリの先生と、ドリームワークスやピクサーでアニメーターとして活躍されている原島朋幸さんが偶然デジハリの同期だったそうで、先生がアカデミー出身の原島さんに私のことをメールしてくださり、お話を聞く機会をいただいて。
ー原島朋幸さんも、デジタルハリウッド大学&Academy of Art Universityのご出身だったんですね!デジハリを経て海外に挑戦する人は多いですよね!
本当にそう!同じ道を経て世界の第一線で活躍されている方がたくさんいるって知って、私にも道が開けるかも!思ってアカデミーにしました。
ーアカデミーの受験対策はどうやりましたか?
アカデミーはポートフォリは実は必須ではないので、いきなり行ける(笑)。だから思い立ったらすぐ行動に移せるのは魅力だけど、その分生徒の質はピンキリかも。一長一短はあるけど、門戸は広いのは良いことだと思う。モチベーションを保つのは大変かもしれないけど。
ー最初からアニメーション志望だったんですか?
ピクサーをアーティストとして目指すならなんだろうと思った。凄い安直なんだけど、ピクサー映画のクレジットを見たときに、アニメーターの人数が一番多かったら気になったのがきっかけ。デジハリに通った時、アニメーションの授業がダントツ楽しかった。だからデジハリに通っている頃にはアニメーションをやると決めていた。
Academy of Art Universityってどんな大学?
ーアカデミーのカリキュラムはどんな感じですか?
学部の卒業には132Unitsが必要。1クラスが3Unitsなので大体44クラス取る必要がある。1学期に推奨されてる取得クラスは4クラス。1クラスの所要時間は3or6時間が多いよ。
※以下asamiさんの場合
■Liberal arts 66units
一般教養科目。日本の大学から単位移行。
■Core 36units
必修科目。あまり選択肢はなく、基本的にアカデミーでの取得を義務つけられている。アニメーションに関係しているものも多いけれど、ドローイングなど基礎を固めるためのクラスも多い印象です(ドローイングなどがメイン、他にもストップモーション、ポートフォリオ等作成クラス、3Dアニメーションの基礎クラスなど)。
■Major 30units
選択必修。数あるクラスの中から自分のMajorに関係するクラスを選択して受講。ただよりレベルの高いクラスをとるためには基礎クラスをとる必要があり、入学して1年は3Dアニメーションはそんなにがっつりやっていなかった(3Dアニメーションがメイン。わたしはプロデューシングや2Dも個人的に学びたかったのでMajorの単位を使って取得しました)。
キャンパス内部の様子。
私は日本の4大を卒業しているので2nd Bachelorという制度を利用して通常の半分ほどの期間で学位を取得するコースを選びました。だから通常5年程かかるところ、3年弱で卒業できる。あと、アカデミーではLA(Liberal arts)と呼ばれる一般教養過程が全単位の半分ほどを占めるんだけど、日本の単位をそのまま移行できたから、期間だけでなく学費もかなり節約になった。
この制度を使って卒業した日本人の先輩を何名か知っていますが、英語学科などでない限り全然関連のない学科でも4大を出ていたら割と限界まで単位を移行できます(最大66単位)。逆に専門学校だと、それがアート系の学校でも移行には限りがあるみたい。
ピクサークラスについて
ーところでピクサークラスって一体何なんですか?!
ピクサークラスは1〜4までのレベルに分かれているアニメーションのクラスで、各クラスに入るためにはデモリール(アニメーションのデモ)の提出が義務つけられている。私が入学した頃は1番下のクラスでもリールを提出して、審査に合格してはじめて受講できるシステムだったよ。
簡単に授業内容を説明すると、
P1 : アニメーションの基礎クラス。バウンシングボール、ピルジャンプ、ピルマイム、ペンデュラム、ウォークサイクル、キャラクターウォークサイクルなど
P2 : sitting down、weight lift、gear change(感情が変化する様子)、obstacle(キャラクターと物体を使ったアニメーション。物体にぶつかったりよじ登ったりする動きを作る事で、身体的・物理的に正しいアニメーションを学ぶ)、など
P3 : Dialogue(会話)
P4 : short film
animation reel Pixar1 2016 from Asami Kanzaki on Vimeo.
asamiさんが実際に作成したアニメーション。
ピクサークラスはアニメーションのクラスなんだけど、先生が具体的にグラフエディターを一緒に開いてアドバイスしてくれる・・・ということは殆どなくて。あくまで授業内では講評をしてもらい、アニメーション自体は授業外でやってくるという流れ。
正しいphysics(重さや動きなどの物理表現)や観ていて気持ちのいいアニメーションは独学でも訓練すればできるようになるかもしれないけれど、キャラクターデベロップメントについてはピクサークラスを経験して本当によかったと思う。
アカデミーのラボの様子。
例えば、他のアニメーションのクラスだと『ここは同じポーズが長いから観客が退屈しないよう瞬きを入れてみようか』等とアドバイスされる。見栄えが良くなるようにどういう動きを入れたらいいか?と考える先生が圧倒的に多い。
でもピクサークラスでは、『なんでここで瞬きをさせたの?目が乾いて自然に瞬きしたのか、それとも何かに驚いて瞬きしたのか、君はちゃんと説明できる?君が迷いなく説明できないなら観ている人には絶対伝わるはずがないよ』と指導されるの!見栄えをよくするための動作ではなくて、何か理由があるからその動作がある。すべての動きには意味があるという事を何度も何度も考えさせられるクラスだった。アニメーションのクラスというより、哲学のクラスというほうがぴったりくるかもしれない。
それだけ深く深く考えながら作られた作品だから、ピクサー映画はどれもbelievableなんだなあと改めて感じます。
ちなみに、今はピクサークラスという名前のクラスではなくなり、レベル1に入るための審査もなくなったので門戸はかなり広くなった。ただ先生方のほとんどは現在も現役のピクサーのアニメーターなので変わらず人気のクラスです。
アニメーションの勉強方法について
ーアニメーションって独学するの難しいなあと感じるんですが、何かおすすめの自習方法はありますか?
ここ数年でオンライスクールがすごい増えたから、そういうのを活用するのはひとつの方法だと思う。受講しなくてもYoutubeでたくさんチュートリアルがころがってるので、それを見て勉強しているよ。
Vimeoもよくチェックするし、もちろんインスタも使う。アニメーターも静止画を結構アップしているからね。日本人アニメーターはツイッターを活用している方が多いから、最近はよくツイッターも見るし、そうやって皆さんが発信してくださるアニメーション情報を参考にしている。
正直、普段は課題でいっぱいいっぱいだったものの、GDCやCTNなど大きなイベントにはいつも積極的に参加するようにしていたかな。アカデミーの学部からそういう場にわざわざ行く子は全体の人数(アカデミーは他校に比べて学生数がかなり多いんです!)から考えると実はあまり多くないんだけど。そういう場に来る子達と自然と仲良くなって、良い刺激になった。そういう場にすすんで参加する子はみんなエネルギーがあるし、目標も大きい。学校でも選択するクラス(ピクサークラスなど)が自然とかぶるから切磋琢磨できてよかった。
ーちなみに好きなアーティストって誰ですか?
いっぱいいて選ぶのは難しいけど、いつも参考にするのは・・・アニメーターだったら、Erick Oh、Doug Sweetland、Allison Rutland、Alexander Savchenko、Frank Abney。
その他だったらHenry Yan、Wendy Macnaughton、Terry Song、Sylvia Lee、Yojiro Arai、JJ Song、Hiro Nagasuna。
社会人経験者だからこそ思う事アレコレ
ー社会人留学で、得した事や損した事はありますか?
若いうちから留学できたら、それに越したことはないと思う。でも、どのタイミングで留学しても、その人なりの不安や恐怖はあるから、思い立ったときがベストなタイミングなのかもしれないね。
普通の会社に入る経験もしてみたかったから、自分のここまでの経歴に不満はない。新卒で入ってそれなりにハードな社会人生活だったけど、それがあったからこっちで大変なことがあった時に何度も乗り越えられた気がする。40歳くらいまで銀行員として働いたあと、ピクサーでアーティストをしている人もいるって聞くし、社会人留学って勇気がいるかもしれないけれど、何を始めるのも遅いなんてことはきっとないと思うよ。
まとめ
いかがでしたでしょうか?ぼくはアカデミーの事やアニメーションの事はもちろん、asamiさんご本人のバックグラウンドが興味深くて面白かったです。そして何よりピクサークラス、マジで受けてみたい。
これから留学をしようか悩んでいる社会人の方に、きっと参考になる部分があったのではないでしょうか。もちろんぼくもめちゃくちゃ励まされた。実は前から少し気になっていたデジハリのことも聞けて良かったです。今後も分からないことがあったら、教えてasamiさん!って念仏のように唱えようと思います。
今回お話しをして下さったasamiさんの作品は以下からチェックすることができます!
demoreel from Asami Kanzaki on Vimeo.