クロッキーや人物イラストがうまくなりたい人は多いですよね。とにかくたくさん描く!というのももちろん大切だけれど、もっと効率的に上手くなる方法はないものか…。
そんなことをずっと考えていた中、ある日ひとつの疑問が浮かびました。過去の偉大な芸術家たちは絵の技術をのばすためにどんな練習をしていたのだろうか?調べて分かったことは、彼らは人体へのあくなき探究心を持っていたということ。美術史上の偉大な巨匠で美術解剖学を一切学んでいない画家などいませんでした。
今より圧倒的に情報が不足していた時代に、文字通り人体を解剖し、ゼロから美術解剖学を学問として体系化していった彼ら芸術家たちの功績ははかりしれません。何もない状態から人体構造を理解するためには途方もない時間と努力がいる。もはや想像すらできない。
現代ではこれらの全ての情報が整理され、多言語化され、誰でも超簡単にアクセスできる時代になりました。昔よりも圧倒的短時間で人体解剖学の勉強ができる。なんてめぐまれた時代なのでしょうか。
だったらもうやるしかない。結局絵の向上に近道などない。人体の勉強もろくにせずに、人間を描きたいなどと言っていた自分が恥ずかしくなりました。ついにぼくは、時間をかけて本気で美術解剖学を学ぼう、と決心したのです。
そう!すばり、上達の鍵はアナトミー(美術解剖学)です!
アナトミー(美術解剖学)とは、主に人体を中心とした、生物の解剖学的な構造を美術制作に応用するための知識体系のこと。
美術解剖学が重要視されているのは、古今東西のアーティスト達の人体へあくなき探究心や人間という存在への尊厳によるものが起源ですが、それは同時に美術解剖学を勉強すれば人物イラストが上達するということでもあります。
歴史的に見ても偉大なアーティストで美術解剖学を学習していない人はいません。というか、美術解剖学をちゃんと勉強してもいないのに、『人体を描けるようになりたい!』と言う事自体が彼らからすれば本来あり得ない事です…。
ということで今回は、クロッキーや人物イラストがうまくなりたい人におすすめの美術解剖学書4選をご紹介します!それではどうぞ!
美術解剖学、どうやって勉強すればいいの?
まず、美術解剖学を勉強するには以下の方法があります。
・人から教わる
・本を使って独学する
・模写する
ぼくは全ての方法で勉強しました(笑)一番手っ取り早いのは、美術予備校や通信コースなどで、解剖学のコースを取ることです。金銭面や時間の都合がつく場合は、これが最もおすすめです。
それが難しい場合は教本を使用した独学も十分可能です。学校で人から教わった場合も、知識を定着させるために継続して自分で勉強していくことになりますし。
その他、模写も有効な手段です。以下に紹介する教本に描かれていスケッチやイラストを模写することで、知識の定着に役立ちます。
ぼくが信頼している教本
ぼくは以下の本を使用して美術解剖学を勉強しました。ぼくなりの総合評価と教本としてのおすすめ度、模写用としてのおすすめ度の3つの観点からそれぞれレビューします。
アーティストのための美術解剖学
総合評価★★★★★
教本 ★★★★★
模写用 ★★☆☆☆
『人体の知識を学ぶ用!』
日本で美術解剖学書と言えばこれ、と言われるほど言わずと知れた専門書。
情報量が豊富で骨から筋肉まですべてを網羅しています。また各用語の英語表記も記載されているため、海外美大留学希望者にとって非常に役立ちます。
正直これは持っていないとはじまらないくらいマストアイテムです。ぼくがメインで使用していた教本のうちの一冊です。
ARTISTIC ANATOMY
総合評価★★★☆☆
教本 ★★☆☆☆
模写用 ★★★★★
『模写用!』
個人的におすすめなのがこれ。
洋書なので英語が苦手な人は嫌煙するかもしれませんが、例え英語が分からない方でも一見の価値があります。それは後半に多数記載されている絵が模写するのにぴったりだからです。
裸体の男性がポーズをとっている絵と、同じポーズで体内の筋肉がどのように伸縮しているかという絵がセットで多数掲載されています。
ぼくは以下の方法で模写していました。
- 筋肉の絵を隠し、男性のポーズ絵を模写する(内部の筋肉の構造や伸縮をイメージしながら)
- 自分の模写と男性のポーズ、そして筋肉の構造の絵を見比べる
これにより、教本で学んだ筋肉の知識がより定着していくので、本当におすすめです!
こちらの記事でもARTISTIC ANATOMYを利用した勉強方法を紹介しています。
Bridgman’s Complete Guide to Drawing from Life
総合評価★★★☆☆
教本 ★☆☆☆☆
模写用 ★★★★★
『模写用!』
これも模写用としては非常に優れた美術解剖学書で、著者であるジョージブリッジマンのスケッチが多数掲載されています。
ジョージブリッジマンは、ダイナミックかつリズミカルな線を失わずに美術解剖学的な表現ができるアーティストで、個人的に彼の線はかなり好きです。
ぼくは電子書籍版をiPadに入れて何度も模写しました。
スカルプターのための美術解剖学
総合評価★★★★★
教本 ★★★★★
模写用 ★★☆☆☆
『簡略化を学ぶ用!』
3Dアーティストが人間のキャラクターをモデリングするときの参考書というコンセプトの本なので、筋肉や骨格の仕組みを元にそれをどう簡略化して再構築するかという説明に非常に長けている一冊です。1000点を超える図版と250を超える写真によって、前身の筋肉と骨格の仕組み、そしてそれを簡略化して理解する方法が掲載されています。
情報量もさることながら、その構成が非常に優れているので圧倒的に分かりやすいです!これを読んだ上で上記のBridgman’s Complete Guide to Drawing from Life の絵を観察すると、線の意図が明確に分かります。
図と写真が非常に豊富で簡略化の感覚を掴むにはもってこいの一冊ですし、美術解剖学のアカデミックな知識をただ得るのではなく知識を絵としてどう再構築するかということに重きを置いた美術解剖学書は少ないので非常に面白いです。上述の通りBridgman’s Complete Guide to Drawing from Lifeと組み合わせると学んだことを絵に落とし込めると思います。
こちらでより詳細なレビューをまとめてます。
美術解剖学を学んでぼくの絵はどう変わったか
美術解剖学を学ぶ前
2014/1/13:絵に関して何も習ったことがないときに描いた絵です。
2015/2/15:通信でデッサンを勉強しながら、月一回東京の美大予備校へ通っていたころ。
2015/8/21:5分ポーズ。プロポーションの狂いが目立ちます。
美術解剖学を学んだ後
2016/1/14:肉感が出てきました。大きくプロポーションが崩れる事も減ってきました。
2016/6/3:表面の筋肉が薄く骨格の形が読み取れる部分を表現できるようになってきました。苦手だった足の形も安定してきた。
2016/8/30:椅子を描く時間は残念ながらありませんでしたが、ついに背中も克服。
まとめ
もちろん、上記の本に掲載されている内容の全てを完全に理解する必要はありません。例えば、ファッションデザインのスタイル画を描けるようになりたい人は、一通り教本を読むだけで良いかもしれませんが、油絵で写実的な人物を描きたい!という人は、かなりしっかりやる必要があると思います。
ぼくは仕事を辞めて4ヶ月まるまるずっと美術解剖学を勉強していた時期がありますが、費やした時間はちょうど良かったと思っています。そのときの詳細はこちら。
美術解剖学書をお得に購入したい方はこららも合わせてどうぞ!
美術解剖学の知識があったからこそ、ニューヨークで出会った先生のアドバイスに対応でき、大きく成長することができました。引き続き、美術解剖学に関する記事も更新していこうと思います。では!