カルアーツに入学してからずっと悩んでいたことがあったんです。
悩んでいたと言うか自分の中で大きなテーマと言うか、関心事と言うか。
それは何かというとライフドローイング(=クロッキー)の感覚のまま、キャラクターデザインができないのかなあ、ということなんです。
それをずっと考えていて。もちろん今も考えているんですけど。
キャラクターデザインもそうだしストーリーボードもそうだし、何においても人間を描くという行為をする以上はやっぱりライフドローイングは大事だよねという考え方は広く浸透しています。
でもなんとなく自分の感覚としてキャラクターデザインとライフドローイングがぶつぶつっと切れていて、なんか別物になってしまっているなーって。
自分もそうだし、周りを見ててもなんとなくそういう人多いんじゃないかなと感じていたんです。
うまくできないけど『キャラクターデザインは絶対にライフドローイングの延長線上にあるはずだし、そうあるべきだ!』という謎の確信だけずっとあったんです。
で、ぼくが留学しているカリフォルニア芸術大学って、金曜日の夜に隔週でゲストスピーカーが来校してくれて色んな話をしてくれるんですね。
アニメーション業界で本当にみんなが知ってる凄いアーティストの方々が来校してくれて、色んな話をしてくれるんですけど、
この人はちょっと次元が違うというか、誰が見てもこの人の絵はやっぱ違う…みたいなキャラクターデザイナーの方の話を聞いていると、やっぱりライフドローイングとキャラクターデザインの間に境界線はないんじゃないかなって感じるんです。
そういう風に明言してる方もいれば、明言してなくても、なんとなくその方がキャラクターデザインのアプローチを説明してくれた時にそうなんじゃないかなって僕が勝手に仮説を立ててるっていうケースもあるんですけど。
いずれにせよ、ライフドローイングの延長のままキャラクターデザインをするっていう感覚って凄く大事なんじゃないか、っていうのがぼくの中にあるんですね。
でもそれがなかなかできない。どうしても別のものになってしまう。
常に悩んでいるというか、どうやったらその境地に行けるのかなっていうのをずっと考えながら色々取り組みをしていて。それ自体すごく楽しいんですけど。
なのでもうずっと前から、
『良いキャラクターデザインをしたい!良いキャラクターデザインってなんだろう?』
じゃなくて、
『ライフドローイングの延長線のままキャラクターデザインするにはどうしたらいいんだろう』っていうことをずっと考えています。
それができれば結果として良いキャラクターデザインなるだろうと。勝手にそれはついてくるだろうと。
で、授業だったりオンラインコースだったり、色んな方の話を聞いたりだとか本を読んだりとかをして、その感覚を育てている中で、これはちょっといいんじゃないかなっていう本がありまして。
この本 、ライフドローイングとキャラクターデザイン。マイケル・マテジさんの本なんですけども。
まあこの本何が凄いかっていうと、
ライフドローイングの本はたくさんあります。キャラクターデザインの本もたくさんあります。でもその2つをブリッジする本って全然ないんです。本来ライフドローイングとキャラクターデザインは繋がっているのにです!
ライフドローイングの感覚のままキャラクターデザインをするっていう考え方やアプローチについて、丸々一冊のボリュームを割いた本って今までなかったんです。
この本がその役割を担ったということでして。
キャラクターデザインの過程をごく簡単に言えば、こうなります。太った男性をデザインするとしたら、ジャッキー・グリーソンを題材に、彼の歩き方、癖、ポーズや動きなどを観察します。スリムな男性をデザインするとしたら、スタン・ローレルかディック・ヴァン・ダイクの歩きや動き方を観察します。それを出発点に、様々な違いを研究し、キャラクターを特徴付ける個性や人生経験などを盛り込みます。これがキャラクターデザインです。
(ライフドローイングとキャラクターデザインより引用)
これは、ぼくがこの間ツイートした内容に通ずるものがあると感じています。
以前あのShiyoon KimとMinkyu Leeがゲストスピーカーとしてカルアーツに来て下さり、キャラクターデザインをするときのアプローチの仕方などを説明してくれました。そのとき『キャラクターデザインはキャスティングディレクターと同じような仕事だ』と仰っていて、なるほどと思ったことをそっとシェア
— 髭猿 (@studyabroadAtoZ) March 17, 2021
続き『単なるeye candyなキャラクター(表面的な見た目や面白さが良いだけ)を作っても意味がない。デザインの力でストーリーをサポートしていないと映画の中で機能しない。だからデザインをするというより配役をしているという感覚の方が近い。実写映画をたくさん観てキャラのストックを蓄えると良い』
— 髭猿 (@studyabroadAtoZ) March 18, 2021
キャラクターデザインがうまくなるためにライフドローイングを頑張っている人はたくさんいるし、キャラクターデザインがうまくなるためにキャラクターデザインを頑張っている人もたくさんいます。もちろん両方頑張っている人も凄く多い。
それが繋がったら、凄いものが描けそうな気がしませんか。
今までのスキルが倍増すると言うか。いや、倍以上ですね。ライフドローイングとキャラクターデザインが繋がったら、間違いなく今まで以上にクオリティの高いものが描ける。
じゃあこの本を読めばキャラクターデザインが上手くなるのか、っていうとそうではないっていうことは留意して欲しくて、
ライフドローイングとキャラクターデザインを繋げるにはこういうアプローチが良いんじゃないか、っていうことに関して書かれた本なので、
基本的にはやはりライフドローイングや日常の観察を頑張っていくということが前提になっています。
なので今まである程度ライフドローイングを積み上げてきた人に関してはもしかしたら即効性があるかもしれないけど、
- この本だけで何かが劇的に変わる
- 明日すぐに上手くなる
というわけではないので、そこは間違いないようにして頂きたいと思います。
個人的には【結局ライフドローイングを続けることが大切だよ、近道はないよ】っていうこの本のスタンスにも好感が持てます。
これ一冊でその境地に行けるとは限らないけど、少なくともその旅の入り口に立つことはできる。そんな本だと思います。
ぼくはこの本を読んで以降、キャラクターデザインをするときはまずそのキャラクターを実際の人間に置き換える作業から始めるようになりました。
身近な人でも良いし、実写映画のキャラクターでも良い。とにかく似た人物像を探します。実際の人間に置き換えたら、その人をモデルにひたすらライフドローイングをします。
ライフドローイングを繰り返す中で、
- その人の個性を演出しているもの=デザインとして誇張すべきもの
- キャラクターとは関連が薄いもの=デザインの中で削ぎ落とすもの
が分かってきます。
それらを意識しながらデザインしていきます。でも、ライフドローイングとキャラクターデザインがシームレスに繋がっている感覚を保つようにしています。
自分の中の人物像のストックを増やさないといけないので、自然と映画を観る量が増えたし、人間観察も明確な目的の元に行うようになりました。
引き続き、ライフドローイング(=クロッキー)の感覚のままキャラクターデザインができないのか、というテーマと向き合っていこうと思います!