既に日本でも多くの記事が出回っていますが、ピクサーアニメーションスタジオの創設者であるジョン・ラセターのセクハラ問題が明るみに出ました。
日本でどの程度の規模間で報道されているのかわかりませんが、通称カルアーツと呼ばれているジョン・ラセターの母校、カリフォルニア芸術大学(California Institute of the Arts)で、今日何が起こったのかをまとめようと思います。
授業中にセクハラに関する記事を発見
現地時間11月21日(火)、14時頃。ぼくたちはCG foundationの授業を受けていました。
その授業中にTA(ティーチングアシスタント)の学生が、ジョン・ラセターがセクハラをしていたという記事を発見したのです。
教授がスクリーンに記事を投影し、みんなで記事を読みました。全員無言でした。
カルアーツでは、有名アニメーションスタジオに勤務している現役バリバリのアーティストが教鞭を執っていることが多く、授業の一環としてハリウッドやアメリカのアニメーション業界の話をよくしてくれます。
その中にはポジティブではない要素ももちろん含まれていて、
『君たちが目指しているのは夢の世界でもなんでもない。現実を知りなさい。』
と実に赤裸々に色々な事を語ってくれます。
日頃からそういう話を耳にしていても、やはり、ジョン・ラセターのセクハラの記事は先生も含め全員に衝撃でした。
そりゃそうだ。彼のファンじゃない人なんて、この大学にいるはずがありません。
そして事件は起こる
フィルムメイカーとしてのジョン・ラセターの功績なんて映画に興味がない人だって知っているし、わざわざぼくがここで記述するのも恐れ多いほどです。
何が真実か分からない中で、怒りなのか失望なのか、何とも形容しがたい重苦しい空気がキャンパスを包み込みました。
そしてそれは、目に見える形でも現れました。
カルアーツには、CUBEと呼ばれる作業場があります。
キャラクターアニメーション科のすべての生徒にこのCUBEとアニメーションディスクが与えられます。
これは手書きアニメーション全盛期の名残で、この場所は当時の学生たちが作画をするための作業場でした。
現在もキャラクターアニメーション科の全ての生徒にCUBEは割り当てられるものの、手書きで作画をする生徒は今はほとんどいないので、ほぼ物置と化しています。
このCUBEですが、写真のように白塗りの壁でできていて、生徒は自分のスペースを自由に塗装してOK。
自分のスペースであればどんな画材で何をしても良いのですが、一定期間が経つと大学側がまた白く塗り直してしまいます。
しかし、一部分だけ絶対に白く塗り直されない場所があるのです。
CUBEの一角には、ジョン・ラセターをはじめとした、世界トップレベルの超有名アニメーターたちが自分の名前を描き残した柱があます。
そこだけは絶対不可侵領域で生徒も大学も絶対に手を加えず、何十年も前からそのままの形で維持されているのです。
calarts cube でググると、たくさんのCUBEの画像を見る事ができますが、トップアニメーターたちが自分の名前を書いたこの柱の画像は出てきません。カルアーツに入学しないと見る事ができない的な雰囲気があり、この柱は学生たちの誇りと、先人たちへのリスペクトそのものなのです。
しかし、今日、誰かがジョン・ラセターのサインの上に真っ黒なガムテープを貼り、その上に白字でNOと書き殴りました。16時頃でした。
誰がやったのかは分かりません。でもそれを迎合する声と、非難する声の両方が存在しました。
ハリウッドの闇
アニメーションスタジオとは言え、会社であることには変わりないので、不公平なことや理不尽な出来事は、そりゃあ当然掃いて捨てるほどあると思います。そこは最初から全く期待していません。
しかし今回のセクハラ問題は、真実であれば愚痴で収まるレベルのことではない。真実であればです。当事者でないぼくらに、まだ全てを判断することはできません。
しかし、記事にある通り、不適切な行為が本当に何年も前からあったとすれば、それが今まで明るみにならなかったことにハリウッドと業界の闇の深さを感じずにはいられません。
今はただ、しっかりと調査されるのを待とうと思います。
『正しいことをしよう』
記事に目を通した後、先生はこう言いました。
『今一度伝えるけれど、ハリウッドのモラルは崩壊している。地球とは違う惑星だと思うしかない。それくらいおかしいんだ。』
『今回のことに関しては、何が本当かはまだ判断できない。少なくとも私の知見から今言えることは、(今回の件とは関係なく)権力は人を狂わすということ。その権力が欲しいなら徹底的に無慈悲にならないといけないし、ときには間違ったこともしないといけないかもしれない。業界はそれくらい狂っている。』
『だから今日ここから、業界を変えるための一歩を踏み出そう。私たちはきちんとした人間になろう。常に正しいことをしよう。そして私たちが業界を変えよう。』
『正しいことをしよう』
これは、今日だけでなく、多くの先生が日頃から何度も何度も言う言葉です。普段ふざけまくっている先生のガチスピーチを聞いて、痺れたぼくたち。
ただ、今回のような事があってもなくても、能動的に常に正しい行動をとるべきだし、じゃあそもそも正しいことってなんだろう?って考え続けないと意味がありません。
果たして柱のサインを覆ってしまうことが正しかったのか。
限られた情報に身を任せ、何が真実かもはっきりと分からないまま衝動的に行動している間は、ぼくらに業界なんて変えられそうにないなと思うのでした。
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