「30代から美大留学するのってどうなのかな?すごく興味があるんだけど、年齢的にもう遅いって言われるし。今からでも大丈夫かな…?」
30代会社員(アート経験は無)でも美大留学できる?これ、結構心配している人が多いので、ぼくの考えを伝えようと思います。
むしろ適齢期じゃない??
というか、実際は適齢期も不適齢期もないです。思い立った時が適齢期だからです。
だって全員が同じような人生を同じようなペースで送れるはずがないし、そうである必要もまるでないじゃないですか。
だから、『30歳からのアート留学が遅い!』って何をもってそう言ってるのか、ぼくはさっぱり分からないんですね。
同じペースで歩む必要が無い以上、やりたい時が適齢期やん!って思います。アナタにとっては遅いかもしんないけど、コッチは今火ついてんだよっていう。違う?
もちろん不利な部分はある
今やっている事とまったく別の事にゼロからチャレンジするのって、少し怖いですよね。自分のバックグラウンドが生かせるのか、それともまったく生きないのか。新しいことに挑戦する人に共通する悩みだと思います。アートの分野に限った話になるかもしれないけれど、ぼくの経験をシェアしたいと思います。
ぼくは経験ゼロの状態からアートの世界へ飛び込みました。それまではただのサラリーマン。26年間アートとは無縁の生活を送っていました。技術的な面で言えば、圧倒的に不利です。絵が大好きな小学生のほうが、よっぽどスキルがある。ゼロからの出発なので、もうこれはどうしようもない。受け入れるしかないです。
ぼくに至っては鉛筆の削り方からダメダメでした。というかデッサンに適した鉛筆の削り方なんか初心者は知らないじゃないですか、普通。プライドを捨て、美大予備校では高校生と肩を並べてデッサンしました。
海外のアートメイキングはコンセプトを重視する
ではぼくが付け入る隙はまったくなかったのでしょうか?そんなことはありません。なぜならアメリカのアートシーンは非常にコンセプトを重視するからです。例えばポートレイト(自画像)。多くの大学がポートフォリオに必須な項目としてあげていますが、いくら写実的に描けたとしても、あまり評価はされません。
『あなたにアカデミックな技術があるのは分かりました。だから何?』ってなる。
自分の人柄や、思考、主張。そういったことが作品に含まれていないと、まったく評価されないわけです。Prattoという美大で教授をしていたぼくのニューヨーク時代の先生はこう言っていました。
『ファッションメジャーだとポートフォリオに“靴の絵”が必要なことがあるわ。そうするとどうなると思う?皆とっても写実的な靴のペインティングを提出してくるの。超上手。でもそんなのファックよね。そんな絵からどうやって受験生の事を知れっていうの?』
なるほど。ちなみにファックはぼくの脳内翻訳です。
で、ぼくが宿題で描いた靴の絵がこれ。恐る恐る先生に見せたら、ものすごく気に入ってくれました。『そう!私たちが見たいのはこういう事よ!』と言ってくれたのを今でも覚えています。
日本の美大は真逆
これって日本の美大とは真逆。ぼくが日本で通っていた美大予備校では画力というか、アカデミックな技術ありきの評価でした。 海外の美大はそうではない。これはぼくにとって追い風となるカルチャーでした。
コンセプトは自分の全ての経験や知識を総動員して考えます。つまりアートに関係のないバックグラウンドも必要なんです。むしろ自分のメジャー(専攻)から離れた経験・知識ほど武器になる。
営業してた頃の経験が作品のアイデアになったり。サラリーマン時代に培ったロジカルシンキングをアートに落とし込んでみたり。それってアートしかやってこなかった人にはない発想だったりするわけで、そこに僕の活路を見いだせました。
これなら勝負できると。日本のサラリーマン(ロジカル)という、海外のアート(クリエイティブ)と最も離れた存在だったからこそ、面白いアイデンティティを形成できると思いました。
アート経験がなくても会社員だった強みがある!
その他にも会社員だからこその強みがたくさんあります。事務処理や普段の仕事で培った、会社員としては当たり前のようなスキルも、実は大きな武器になるんです。だから30歳会社員(アート経験は無)でもアート留学に挑戦したらええ!
圧倒的な人生経験
技術だけでなく作品のコンセプトが重視される海外では、豊富な人生経験から生まれる考察力が非常に武器になります。会社員としてサバイブしてきた人であれば、説得力のある強い作品を生み出せる可能性は高いです。
スケジュール管理能力
これは何をやる上でも大切なスキルですが、海外美大受験でももちろん重要です。日頃から並々ならぬプレッシャーの中で様々な期日に追われている会社員であれば、長く困難な海外美大受験も計画的に戦えます。
火事場の馬鹿力
仕事も辞め背水の陣でアート留学に臨む人の追い込みは、やはり10代にはない粘りがあります。出願直前の最後の最後で実力がぐっと伸びるのは社会人経験者が多いような気がします。
アート経験の無さが武器になる!
会社員の方が海外美大進学を目指す場合、それまでのスキルが生きないのではないかと悩まれている方が多くいらっしゃいます。しかしそれは間違っています。上述の通り、むしろそれまでのスキルをフル活用してアートメイキングをするべきです。
自分のスキル×アート=専門性です。現在トップレベルで活躍しているアーティストを見ても、アート一辺倒の人はほとんどいません。皆うまくキャリアを掛け合わせてオリジナリティを出しています。
例えば、
- タクシードライバーがフォトシューティングをしたら?
- 営業担当がジュエリーデザインをしたら?
- 農家がファッションデザインをしたら?
- 主婦がファインアートをしたら?
めちゃくちゃ面白そうじゃないですか?クリエイティブな要素がまったくない仕事をしているからといって、アート留学を諦める必要性はまったくありません。ぼくは、むしろアートとかけ離れた場所にいる人ほど、新しいものが生み出せるチャンスがあると思います。
その分野の専門家より門外漢の方がイノベーションを起こせる可能性が高いというのはよく言われることです。アートのバックグラウンドがない人こそ、アートの世界へ挑戦するべきだ。
やはりゼロからアートを始めるにはそれなりの覚悟が必要ですし、結構しんどいと思います。ぼくは半年くらいですが、毎日英語を勉強している夢と絵を描いている夢を交互に見続けるという症状が出ました。
しかし、それでも不可能ではありません。アートは、『小さい頃からずーっと絵だけを描き続けてきました』っていう人たちだけのものではないです。多様性が次のアートシーンを創り出します。
だからこそ、ぼくは未経験者がアートの世界へ飛び込んでいくことを、心の底から応援しています。実際に、世界で活躍している建築家の安藤忠雄さんも、元々はボクサーだったのをご存じですか?そこから完全に独学で建築の勉強をして、道を切り拓いていきました。
アート経験の無いがないからこそ、その奮闘していく様に惹きつけられる人も多い。既に完成された物語よりも、現在進行系のストーリーの方がエンゲージメントは高くなります。自分の挑戦をブログなどで発信することで、それが誰かの勇気につながったり、収益化をすることも可能です。
就職が不利になる?
質問で一番多いのが、卒業時の年齢的に就職が不利にならないかということ。30歳から留学を開始すると卒業時点で34歳なので、心配になる方も多いのかもしれません。海外、特にアメリカの就職と年齢の関係の話をすると、一切気にする必要はありません。
なぜならアメリカはResume(履歴書)に誕生年月日や年齢を記載しないし、採用の合否を年齢で判断することは差別にあたるからです。面接で年齢を聞かれることも気にされることも、まずありません。日本の雇用とは根本的に大きく形態が異なるので、年齢に関しては全く問題ありません。
英語学習の適齢期はとうにすぎてるって?
人間の言語能力の習得には年齢が大きく関係しているから、30歳になってから英語を勉強してもかなり苦労するし時間がかかる、というのは悲しいけれど事実。でも苦労するし時間がかかるだけで、不可能だというわけじゃないですよね?それに、ある程度お金をつぎ込める人であれば、時間も短縮できると思います。
確かに独学だと時間はかかるかもしれないけど、今はTOEFL対策コースも充実しているし、資金的余裕があればアート留学の前に語学留学という手もある。スキマ時間のオンライン英会話だってあるし、30歳だからといって道が閉ざされたわけではありません。
30代会社員が海外留学で失う8つのこと
もちろん失うものもあります。
- 1. 職を失う
- 2. 社会保険を失う
- 3. 社会的信用を失う
- 4. 上司を失う
- 5. 自分のコントロール外のところから突然やってくるタスクを失う
- 6. 冠婚葬祭の出席機会を失う
- 7. 帰国して同期と飲んだ時に共通の話題を失う
- 8. ある程度の範囲内で想像できた未来を失う
留学に対して、全く想像できない未来にドキドキする一方で、最初はやっぱり恐怖も感じました。恐怖を感じたのになんで留学を選んだのかというと、失敗することよりも後悔することの方が恐いと思ったからです。会社を辞めるとどんな後悔があるのか、逆に会社を辞めないとどんな未来が待っているのか。両方を考えた結果、『あのとき思い切って留学してれば良かったなー』って後悔する未来が何よりも恐いと思った。だから会社を辞めて留学しました。
実はメリットも多い30代からの留学
高校からストレートで入学している生徒の年齢は18歳。30代から見れば一回り以上年下の人たちとクラスメートになるので、うまく打ち解けられるかな…孤立してしまわないかな…と不安になる気持ちはよく分かります。でも大丈夫。むしろ慕ってもらえるかもしれません。
ぼくのクラスメートには30歳以上の人も多く、中には結婚して子供もいるお父さんやお母さんもいます。彼らは『若い子たちの流行りのアプリやゲームなんかは全然わからないよ』と笑いながら言いますが、圧倒的な人生経験と包容力から10代・20代の学生からもとても頼りにされていて、年齢も国籍もバラバラなクラスの中で中心にいる人物です。本当に心強くて、ぼくも何かあれば真っ先に相談する心の支えです。
30代ともなれば、色んなトラブルや人間関係の対処法が身についている人も多いはず。自分の失敗やコンプレックスをちゃんと受け入れて、それを素直に話すことができる強さも身につけているはずでしょう。大人で落ち着いているからこそ、頼られる存在になれます。ネットワークという言葉はあまり好きではないけど、留学の目的のひとつは交友関係を広めること。世界中に友達を作るという目的も達成しやすいです。もちろん、今までの学びをリセットする柔軟さとオープンな姿勢が必須なのは言わずもがなですが。
まとめ
ということで、30歳会社員(アート経験は無)でもアート留学できる?という質問にぼくなりに答えてみました。
アート未経験ということは、他の事をしてきたということ。アートの基礎をしっかりかためれば、今まで積み上げてきたその他の事が確実に生きてきます。小さい頃からずっとアートをやってきた人だからこそ持っていない武器を、自分は持っているはずです。
ちろんアカデミックな技術は必要です。アートをするならあくまでアートの研鑽は必要。でも最終的には自分の全てを用いて戦うのがアートメイキングだから、全ての経験が武器になる。アートのスキルがないからやらないのではなく、代わりに持っている武器を使えば勝機はあります。だから今でも、アートと関係のないことを積極的に吸収するようにしています。そんなこんなで、ぼくはここまで戦えてます。
繰り返しになりますが、『アート留学、やりたい時が適齢期やん!』って思います。ぼくが絵を始めたのは26歳になってからです。それまでは学校の美術の経験しかありませんでした。それでも挑戦ししました。そして念願叶い、2022年にアメリカで絵本が出版されます。
『30歳からのアート留学が遅い!』って誰かに言われても、あなたの心に灯ったその火が大きく燃え上がり世界に届きますように。
英語が全くできないし、アートの経験もない。でも留学したい!という人はたくさんいると思います。英語ができるかどうか、絵が描けるがどうかより、行動できるかどうかです。できないことをできるようになるために、今日何をするかです。夢は叶うぜ!って言っているわけじゃなく。その衝動に今すぐ飛び付け!と申しております、このブログは。
日本国内から美大留学準備がしたい方へ
海外美大の受験対策コース、ぼくらだったらこうするのに。ついにそれを形にしました。ぼくも講師を務めます。自分が初めてポートフォリオを作ったときに必要としていた人になれたら。そう思って皆さんに熱量をぶつけていきます。
アート留学センターは、今日本にいる日本人の中で、恐らく一番海外美大留学に詳しいYoshiさんが立ち上げた、学習から出願までオンラインで完結するアート専門の留学サポートです。アート留学センターって何?という方はこちらをどうぞ!