ぼくは元々スケッチが好きではありませんでした。むしろ嫌いだった。いや、嫌いだった。
日本の美大予備校に通っていたときは、
・絵を描けるようになりたい
・でも描きたいモチーフが特にない
・たいして褒められることもない
と、悪戦苦闘していて本当にスケッチが苦痛でした。
スケッチがうまくなりたいのに、なぜか描きたいものがなかった。恐らく描きたいモチーフがなかったのは、自分がうまく描けるモチーフがなかったからです。
本来スケッチはカジュアルに好きなものを好きなように描けば良いもの。しかし、当時のぼくは減点方式で評価する先生から学ぶことが多かったため、写実的であることが正義だという偏った考えに陥っていて、全くスケッチを楽しめませんでした。
でも、ニューヨークにアート留学をして、スケッチのコツ(Tips)を教えてもらって考え方が変わった。それは日本で教わってきたものとは全く違いました。
というかそもそも日本ではスケッチ文化があまり発達してないので、的を得たアドバイスをできる日本人が少ないのかもしれない。
とにかく、ニューヨークで教えてもらったスケッチのコツは、僕の絵に大きな影響を与えました。
ぼくが今でも常に気を付けている6大原則。そんな、知ってるだけで得するスケッチのコツを今回はご紹介します。
Don’t be critical, stay loose.
ニューヨーク留学中に、最も心の支えになったアドバイスがこれ。ライフドローイングセッションに参加したとき、おじさんに言われました。
自分の絵に批判的になるな。プロポーションやアナトミーは大切だけれど、それに囚われすぎてはいけない。自分の手を信じ、感覚を信じ、そのときのひらめきを信じ、それらに身を委ねる勇気を持つことが一番大切だという教えです。
もちろん、アカデミックな要素は本当に大切です(誤解なきように!)。
でもそれに固執して個性を失うな、その瞬間のひらめきに手を任せられるようにlooseでいろ、とおじさんは教えてくれました。
スティーブ・ジョブズのstay hungry, stay foolish並みに痺れたこと覚えています。
この言葉をきっかけに、学問としてのアートから、真の意味で創作活動としてのアートへ舵を切ることができました。
Take time.
これはニューヨークのアートスクールの先生から教わりました。
スケッチはカジュアルに楽しむものだけど、時間をかけることも大切だと。かけすぎてもいけないのが難しいところだけど。
実はこれ、気に入ったスケッチができないときはいつもより少し時間をかけろ、という文脈でもらったアドバイスです。
描くのが苦手なものを描くときもそう。
例えば、当時のぼくは鼻を描くのが苦手で、それはすぐ先生にばれました。
その時の先生のアドバイスがtake time。時間をかけろと。焦らずよく見ろと。
モデルさんが20分ポーズをしてくれていたら、20分を鼻だけに使ってもいいから時間をかけろと。それくらい極端なことを言われました。
スランプ気味になったときにも頼れるアドバイスです。
いつもより長めにスケッチするだけで、調子を取り戻せることがあるので、これも今でも心掛けています。
ちなみに今は顔のパーツのなかで鼻を描くのが一番楽しい。先生ありがとう。
鼻が好きだ。鼻を描きたい。
take a risk.
ときには新しいことに挑戦してみることも大切です。
失敗しても大丈夫、スケッチブックは上手な絵を描く場所ではありません。たくさん実験をするところです。
キャンバスの上では怖くて出来ないような事を、思いきってやってみましょう。
お気に入りのページの上からあえて描き足してみたり。コーヒーを垂らして白紙のページを汚してみたり。
人の真似を恐れるな。
これは、バー的なところで働いていたジェニファーという女性から教えてもらったスケッチのコツ。
彼女は Parsonsのイラストレーション科の卒業生。Parsonsはニューヨークにある有名な海外美大のひとつです。
ぼく:海外の美大でアニメーションを勉強したくて、受験の準備をしているんだけど、何かアドバイスをくれない?
ジェニファー:好きなアーティストのマネをすることを恐れちゃだめ。マネすることを嫌がる人は多いけど、むしろどんどん参考にすべきよ!例え練習のために誰かのスタイルをマネしたとしても、あなたが描いた絵はいつだってちゃんとあなたの特徴を持っているから大丈夫!それに考えてみてよ、たった一回お手本にしたくらいで他人のスタイルをものにできると思う?
なるほど。
これは目から鱗でした。人の作品を参考にするのって良いことなんだって、このとき知った。
確かに、自分で考えられる範囲の中だけのクリエイティビティなんて、たかが知れてる。知らないこと、できないことをどんどん吸収して成長するべきです。
今では、『オレは模写なんかしたくない。自分の絵を描いて描いて描きまくってその先に自分のスタイルを確立するんじゃああ』って人を見るとなんて傲慢なんや、と思う。もしくは天才なのかも。
とにかく描け。狂ったように描き続けろ。
これもジェニファーから言われたこと。
絵がうまくなるために一番大切なことは何か聞いたら、
『いついかなるときも手を止めるな。授業中でも友達と会ってるときも、常に描き続けろ』と言われました。
この話を聞いたとき、イラストレーターの寺田克也さんのことを思い出した。
寺田克也さんは仕事で6時間ぶっ続けで絵を描いた後、休憩するといって仕事とは関係ない絵を描くらしい。
仕事も絵だし、息抜きも絵。
それくらい狂ったように描き続けろということか。
で、とりあえず言われた通りやってみた。ただの会社員が1年半スケッチを描き続けた結果はコチラ。
構図には気を配れ。
スケッチブックは実験場。リスクをとって新しいことをどんどん試してみるべきです。これは前述の通り。
でも、どんなときも構図には必ず気を配りましょう。このブログでも何度も触れている内容です。
カルアーツに行きたいという人のスケッチを見ると、キャラクターっぽいテイストで人間のスケッチがたくさん描かれていることが多い。
絵自体は単体で見てとても上手なのですが、ページ全体としては弱く感じます。
なぜなら構図をしっかり考えないと、ただのメモと同じになってしまうから。メモをあちこちに書き殴っても小説にならないのと同じです。
常にしっかり画面の隅まで意識を置いて、スケッチをしましょう。
これはスクリーンにどう物事が写るのかを考える訓練になります。
最後に、一番大切なことを。
スケッチのコツでググると、まずは大まかに全体を描いて、ざっくり陰影を付けて、そこから少しずつ濃淡の幅を出していって、みたいなテクニカルなコツがたくさん出てくる。
写実的な絵を描きたいなら、それはとても参考になります。
でも楽しくスケッチをするために一番大切はことは、そんなことではありません。だから今回はアカデミックなコツはあえてあまり触れませんでした。
大切なのは、写実性以外のアートの尺度を持つこと。
本物にそっくりな絵だけが上手い、写実的な絵だけが人を惹きつけるというのは間違っています。
“上手い”という言葉に惑わされてはいけません。上手い絵、凄い絵、カッコいい絵の定義は、もっと幅広い。
自分とは違うジャンルのアートをしている人のスケッチブックを見てみてください。必ずインスパイアされるはずです。
上手い絵は何か?じゃなくて、あなたらしい絵は何か?って訊かれたらなんて答えますか?
それが作品を通して伝わるくらいに個性があるスケッチができたなら、今よりもっと楽しいはず。
好きなように描いたぼくの絵も、好きなように描いたあなたの絵も、どっちも面白いよね!って言い合えるアートシーンを一緒に作っていけたら、これ幸い。
ちなみに、この記事を読んでスケッチをやる気になった方は、スケッチブックを買う前にこの記事を是非ご一読あれ。どうせならテンションの上がるスケッチブックを使いましょ!
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